エンドレスエイト

涼宮ハルヒの憂鬱についてです。


涼宮ハルヒの憂鬱』第2期の放映が始まりましたが、過去にない異例の演出が波紋を呼んでますね。
12話から始まった「エンドレスエイト」です。


原作を簡潔に説明すると、「8月が半永久的にループしてしまい、それに気づいた主人公キョンがなんとか打開策を考える」
というSF的展開を見せる短編ストーリーであったのですが…


アニメでは現在12話から続き16話まで、すべてが「主人公らSOS団が夏休みを満喫する」という内容でほとんど同じまま繰り返されているのです。
しかも5話それぞれで作画やアフレコまですべて作り直されている。
正確に言えば12話はループに気づかず、13〜16話では8月のループ気づく、という違いがあったりするのですが、とにかく毎週同じ描写が繰り返される。


これには視聴者の間でも賛否両論が巻き起こっており、良くも悪くも大きく話題を呼んでいます。
放送日の度にインターネットは阿鼻叫喚状態なのですw



さて、私の素直な感想はといいますと、
この京アニの演出は、「素晴らしい!!」の一言につきます。


もちろん、商業的にはアウトです。京アニは相当なダメージを負っているでしょう。
同じ話ばかり収録したDVDが2巻分以上発売したとしたら、身を切って購入する人は確実に減るだろうし、
作画・セリフが毎回違うとはいえ確実に飽きを呼ぶでしょう。
ましてや2期発表からかなりの時間を経た上でこのような放送をしているわけで、ファンであっても憤る人が多いことは容易に想像できます。


ただただ京アニは、視聴者でなく原作を選んだ、ということなのです。
「手抜き」という意見も多々見られますが、同じカットを(全くかどうかは分かりませんが)使わず
毎回服装が変わり、アクションが変わり、微妙な演出が変わりと、全力投球で同じ話を作り続けているのです。
こんな破天荒な演出は、アイデアこそあれ、きっと過去にも先にもないだろうと思います。


私は、アニメを見るのにこんなに緊張するのは久々だというほど。毎回終盤に近づくにつれて自分の心臓の鼓動まで聞こえてくる。
こんなスリリングな体験ができるのは、多分リアルタイムにこの事実に直面しているからでしょう。



このリアルタイムの緊張という点は非常に重要だと考えています。
放送日に初見でしか味わえない感覚。
DVD化してから見ても、動画共有サイトに流れだしたものを見ても、それはもう「過去のもの」なのです。
たとえ内容を知らずに視聴するとしても、展開を飛ばせない焦燥感や、次にどうなってしまうかという全くの未知への期待は
DVDや動画共有サイトよりも放送をリアルタイムに見ることの方が断然大きいでしょう。
アニメや映像作品というより、一種のハプニングに近いものがあります。


上にも書いた通り、商業的にアウトというのはこの点についてもです。
DVD化するというのは、この場合「作品を収録」するのではなく、単純に「記録」化することに近くなると思います。
エンドレスエイトの演出は、リアルタイムで流れるアニメの意味に重点を置いた、「涼宮ハルヒシリーズ」の味を力強く描いたものなのです。



私が『涼宮ハルヒ』シリーズに出会ったのはアニメ版第1話「朝比奈ミクルの冒険 Episode00」でした。
ハルヒについての予備知識は全くありません。ただ、テレビをつけたらたまたまやっていたのです。
しかし、そこには恐ろしく凝った演出がちりばめられていたのです。

設定としては主人公たちが作った自主制作映画、という体なのですが、
カメラのブレ・ピンボケ・MIDI音源・セリフは棒読み噛み噛み・その他映像制作にあたって素人のやらかしそうな沢山の単純ミスを再現した演出がてんこもり。
今でも強度を誇る、実在風景を元にした背景や良く動く作画はもちろん、モブまで丁寧に動かす徹底ぶりに
「こんな完成度の高いアニメが世の中に存在したのか」と、原作も買占めて毎週のように涼宮ハルヒの憂鬱を見るようになったのです。
萌えとか俺の嫁とかじゃありません(というかハルヒのアニメのキャラデザは好みでない)
単純に映像作品としての細やかかつ大胆な演出に心を射抜かれたのです。
原作にここまで愛を注いだ作品はなかなかないと思っています。

これは「マンガやアニメやネットの偏見を飛び越えた価値」として、今の私の活動の姿勢のひとつのきっかけにもなっています。



そんなこんなで私に大きな感動と衝撃を与えてくれたアニメ・ハルヒに、最後まで大きな期待を寄せています。
とある情報ではエンドレスエイトは6話構成でほぼ決定といわれていますが、果たして今週、SOS団の8月は終わりを迎えるのでしょうか?

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7/24追記:えーと、7週目が決定いたしました^q^


上記に加えまして、もう少しエンドレスエイトについて書いてみます。


2005年に設立された「Youtube」に始まり、2006年末に登場し爆発的に広まっていった「ニコニコ動画」などの動画配信サービス。
この動画共有サービスにより、アニメのあり方は大きく変わります。

TVアニメをコメントと共に共有する楽しさや、無料でいつでもアニメを見られる手軽さを理由に、テレビで放送されたアニメーションが直後に動画共有サイトにアップロードされることが日常となったのです。
当然権利関係上の関係でアニメ制作会社やテレビ局はその動画を削除するわけですが、アニメを素材とした二次創作(MAD等)はクオリティの高いものも多く、ユーザー側に大きな人気があります。
削除基準がかなりグレーになり、このような形での利益損失はもはや抑えられないものになりつつもあるのです。


その流れを受け、今度はアニメ制作会社側が動画配信サービスを逆手にとり出しました。


代表的なのは、シャフト制作のアニメ『さよなら絶望先生』シリーズです。
劇中に大量の文字が何度も出てくるのに反し、読めないレベルの速度で画面を切り替えてしまうような、
一時停止前提の演出というものが前面に押し出されていました。
これは作品をDVDでも楽しんで欲しいという意識はもちろんですが、確実に動画配信サイトの気軽に停止できるシステムを明らかに意識している。
また、MADの作りにくい特殊な演出のオープニングを制作したりもして、とても挑発的ですw


京都アニメーションも『らき☆すた』では多くのニコニコ動画を意識したアプローチをしていますし、
涼宮ハルヒちゃんの憂鬱』『にょろーんちゅるやさん』に至っては「Youtubeアニメ」を掲げYoutubeでの配信という形で放送しています。


エンドレスエイト」を楽しむにあたってリアルタイムを意識したスリルを挙げたのですが、
エンドレスエイトが繰り返し放送されることにより、今度はまったく逆方向の楽しみも生まれてきます。それは「比較」することです。
これは無理矢理な推測ではありますが、このエンドレスエイトはそれぞれの話を自由に行き来したり、同時再生によって楽しませるようなギミックも仕組まれているのではないでしょうか。
本編を使用した動画がほぼ削除されているので全然説得力はないわけですが、常にどこかで「比較動画」なるエンドレスエイト放送分全話同時再生動画が存在しているのは確かです。
これだけの細かい演出の違いを作りながらDVD2巻分にも及ぶ全話を見比べるなど野暮なもので、
エンドレスエイトの「記録」を同時に流して意見し合いながら発見するという行為は動画配信サービスならではの楽しさがあります。


はてさて来週はどうなることやら…!