カオス*ラウンジ7「穏やかじゃない」

藤城嘘企画・カオス*ラウンジ7「 穏やかじゃない」

会場:ビリケンギャラリー( http://www.billiken-shokai.co.jp/
東京都港区南青山5-17-6(表参道駅より徒歩5分)
会期:2015年8月22日(土)〜9月2日(水)※月曜休廊
OPEN:13:00〜19:00



 藤城嘘企画「カオス*ラウンジ」は開催から7年目を迎えました!「カオス*ラウンジ」はインターネットをきっかけとして、web上で交流のあるアーティストたちがオフ会的に集合する展示であり、美術作家・イラストレーターなど毎回30人近くの多岐にわたる方に参加していただいています。本年も他とないような表現に出会える、お祭りのような場になればと考えております。
 テーマ「穏やかじゃない」は、「心をざわつかせるようなビビッドな作品を一堂に集めたい」という思い、「安定することのないこの世界について考えたい」という思いからつけています。世界は穏やかではありません。大海に揺れる船の中のように。嵐の夜の部屋のように。アートは穏やかであってはなりません。明滅する信号のように。岩に刻みつけられた暗号のように。2015年という時代に集合した表現を、どうぞご高覧いただきたく思います。


参加者:
藤城嘘
あいそ桃か
あらた
一輪社
梅ラボ
SY
かなみとも
蚊に
川村元紀
ク渦群
くわがた
乙うたろう
ゴトーヒナコ
下野薫子
都築拓磨
TYM344
中島うすけ
名倉聡美
ななしろ
新関創之助
堀江たくみ
ミアロ
三毛あんり
×□
村井祐希

柳本悠花
簗瀬草介
山内崇嗣
他...

『マッドマックス 怒りのデス・ロード』初見感想

 『マッドマックス 怒りのデス・ロード』(原題『Mad Max: Fury Road』)を見た。ほとんど前知識がないままに見た。『トゥモローランド』か『チャッピー』あたりが気になっていたんだけれど、知人に勧められたから観たのである。とはいえ見る直前、電車の中で少し情報を調べてみたのだが、それでもとにかく「ヤバい」「痛快だ」などという感想しか出てこない。とりあえず『北斗の拳』の元ネタになったシリーズが30年ぶりに新作を出した、ということを念頭に映画館に入った。
 席についてから隣を見ると、いくつか席を空けた先にスキンヘッドの外国人男性二人組が座っていて、「WOW」と思っていたら、前の列にぞろぞろと5人ほどの外国人(一人は女性で、一人はモヒカンであった)がやってきて、「マジかよ」と思った。(彼らは劇中の銃を扱うシーンなどでたびたび「HAHAHA」と笑っていて、良かった。)


 さて、映画が終わってみると、エキサイティングした僕の頭はすっかりマッドマックスに感染していた。後日この奇妙な体感を、何人かの人に伝えようと思ったのだが、ことごとく失敗した。骨であるストーリーを語ろうとするとスッキリしすぎているし、肉である面白かったところを面白く語ろうとすると、ギャグの面白さをワザワザ説明する的な油っこさがある。この4,5日、解説しようとするほど、頭悪く唸るしかなかった。


 僕はパンフレットも買えていないし、過去の『Mad Max』シリーズも未見、こういったアクション映画もあまり見ていない立場だが、自分なりに整理するためにも、以下にこれから〈ネタバレ回避感想〉と、映画が終わってから頭に引きずっていた〈ネタバレ込み感想〉を書きたいと思う。



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〈ネタバレ回避用感想〉
 まずは作品を見る前の前提として。本作はR15指定だがよっぽどのビビリで無い限り、意外なことに直接スプラッターな表現やエロ描写はあまりない。『ジョジョ』シリーズなんかが大丈夫なら問題ない。僕は残念ながら(?)2Dの字幕版を観たのだが、元気があるなら3D、そして4DXを体験すると遊園地のアトラクション顔負けの楽しさを味わえるだろう。僕はもう一度観るならせめてIMAXで観たい。過去シリーズ3作は見なくても楽しめる。むしろ、本作はスピンオフなのではないか、というくらいに、物語上の主人公マックスは目立った存在ではないし、彼の何かが解決する話というわけでもなく見える。


 twitterなどの感想では「ヒャッハー」の言葉がひとり歩きしている感もあるが、『Fury Road』の世界は原始的なものだとイメージしてもいい。部族ごとの衣装やガジェットの違いが眼に楽しく、太鼓の音と共に、槍が飛び交うバトルシーンは、戦闘騎馬民族同士の戦いのようでもある。そういった意味でこれはロードムービーであり、日本人の僕たちから見るとアメリカのノリが強調されて見えるのかもしれない。


 誰かの感想に「予告編のテンションがずっと続く」という表現もあったが、実際は予告編で使われている映像すら本編でも予告編のように過ぎ去っていく部分だったりする(世界観の説明は冒頭、端的に終わるのだ)ので、あとは本当に奇天烈な車のカーチェイスと横転・爆発・砂煙が交互に続いていくという、予告編の倍くらいにテンションが高い内容だ。上映中はというと、爆笑の連続。もはやどこまでがギャグなのか分からないような、中学生が考えそうなガジェットや演出が山ほど出てくるのだ。ベタベタの演出やオマージュなどで随所で笑わせにくるので、「こんなん笑うやろ!」が僕の最初の感想だった。しかし褒め言葉として「プロットもストーリーもない」「IQが低い」という極端な感想も目につく本作であるが、実際そんなことはない。勢い良く進むストーリーはアクションのために用意された行き当たりばったりのように思えるかもしれないが、この映画は神話的冒険に思われた。せわしない展開に、頭のなかが「ヤベエ」の一言に支配され絶句してしまうわけだが、バターの唐揚げのような雑な作りだったという訳ではなく、思い返すほど設定作りや画作りに奥深い味がある。英雄神話としてこの映画が幕を閉じるとき、なかなか爽やかな気分にはなった。



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〈ネタバレ込み感想〉
 『インターステラ―』では主人公のいる地球では、農作物のことしか考えられないほどに人類は追い詰められていた。本作は放射能汚染後の砂漠化した世界「ウェイストランド」が舞台。仮にこの荒廃した世界が『インターステラ―』で捨てられた地球の後の姿、と見立ててみると、ウォーボーイズは訓練された太鼓を叩き鳴らし、凝った改造車に乗って爆走している。なんと人間たちは結構文化的に暮らしていのだ…!監督のジョージ・ミラー宮崎駿をリスペクトしていると発言していて(>「マッドマックス」ジョージ・ミラー監督が激白「宮粼駿は、私にとって神」http://eiga.com/news/20150605/28/)、それを考えると『風の谷のナウシカ』『もののけ姫』の世界を思い出す。宮粼駿は、たしか「もののけ姫」のドキュメンタリで人こんな内容のことを語っていた→例え人類がごく少数になったとしても、それでもなんだかんだ暮らしているならそれは滅びたとは言わない…(曖昧な記憶)。本作ではマックスでさえトカゲを食べてしまうような極限世界にも関わらず、こういった文化的意匠が豊かであるところが面白さかもしれない。関係ないが、映画を見ながら、ニュークスの存在はカオナシっぽいな、とか思った。


 映画を見終えて一番「おや」と思ったのは、この映画の主人公格が女性だった、ということである。とか言い出すと「フェミニズム云々〜」とか思われるのかもしれないが(実際公開から時間が経ってtwitterも荒れてきているが)、『北斗の拳』的なマッチョな世界を想定していた自分としては「鉄馬の女」が大集合してシタデルへ向かったあたりで「あらまあ」と思ったのである。口数がとにかく少ない主人公マックスは、強靭な肉体を持っているとはいえ草食男子さながらの振る舞いである。妻子を失い極限状態をサバイブしている、という設定上、マックスと女性が肉体的に触れ合うシーンは微塵もない(笑ってしまうほどB級の鑑賞者用のサービスシーンはあったけれど…w)。そして言うまでもなくこの作品に登場する男性陣は改造車を乗り回し、戦いに明け暮れており、その生涯を”趣味"にささげているかのようだ。この世界の未来を冷静に眼差すのは、フュリオサやジョーの5人の妻、そして「鉄馬の女たち」だった、と僕には見えた。ただ、“独裁"から開放されたその後の”復興”は、さぞかし大変だろうなと思った。当然の話だけれど、この映画の終わりは、フュリオサたちの苦難の物語の始まりでもある。もちろん映画のメッセージは「私達はモノじゃない!」というところにもあるので、それはマックスがはじめ輸血袋扱いされていたところからのニュークスの目線の変化からも分かる。


 さてしかし、死んでしまったスプレンディドとその子どもには可哀想であるが、この映画で人類が遺した「種」は、イモータン・ジョーの子種ではなく、様々な「植物の種」であった、という見方もできるかもしれない。人間の愛に気づいて死んでいったニュークスの物語なども含め、人間の生命観や生き様について様々なメッセージが登場人物から発せられていただろう。放射能により長くはない命を持ち、ジョーのためなら特攻を辞さない狂信的な「ウォーボーイズ」の存在も、昨今の時事問題に絡めようとすればいくらでも切り口が用意できそうである。素直に「ヒャッハー」せずにダラダラ書いてしまったが、クリエイターのはしくれとしてはそうはいかないのだ。口につめこまれたパンケーキはなんとか味を確かめながら消化しなくてはならない。『Fury Road』が豊かな可能性に開かれた映画であったことを少しでも整理できたならよいのだけれど。この映画はきっと頭の中に後からジワジワと効く何かの種を埋め込んだはずなのである。ああ、もう一度やっぱり観たい。

ポスト渋谷系にみる、音ゲー楽曲と邦楽シーンの影響関係(後半の2)

以前から書き続けてきた
ポスト渋谷系にみる、音ゲー楽曲と邦楽シーンの影響関係(前半)
ポスト渋谷系にみる、音ゲー楽曲と邦楽シーンの影響関係(中半)」
ポスト渋谷系にみる、音ゲー楽曲と邦楽シーンの影響関係(後半の1)
に引き続いて、今回は後半その2としてTOMOSUKEについてまとめてみました。やはり、なが〜くなりましたw
あんまり文章書きに慣れないもので、後から読みやすいような調整を入れたりしていますが、ご了承くださいませ。



>>>>渋谷系を通りすぎて「フランスからやってきた」、TOMOSUKE

渋谷系音ゲー」…といえばwacじゃなくてまずともちんでしょ!というツッコミの声が聞こえてきそうだ。BEMANIシリーズで最も本格志向のオシャレなポップを提供し続けてきた一人は考えてみればwacというよりTOMOSUKEかもしれない。勿論TOMOSUKE氏の楽曲も大好きなものがいくつもあるのだが、何故私の頭の中ではTOMOSUKEよりwacの方が距離が近いのだろう…そう考えてふと思ったのである。
TOMOSUKEの曲、オシャレすぎるのでは??」
wacが全面的に出す「日本のハイブリッド」感に比べ、TOMOSUKEのいかにも本格的なジャジーな楽曲、フレンチなポップ。これはネオ渋谷系とかポスト渋谷系とかよりももっと本場に近い感じがする。なにしろ、フランス語だし。。

Orange Lounge「Dimanche」(ジャンル名:ラウンジポップ)

ポップン7に収録された、ポップン初のTOMOSUKE楽曲。以前の記事(中半)に引き続き、キャラクターがリエちゃんであることは注目。)


さて、改めてざっくりとTOMOSUKEを紹介しよう。「ともちん」の愛称で呼ばれるTOMOSUKEこと舟木智介は、KONAMIの初期の音ゲーシリーズである「Dance ManiaX」「MAMBO A GO GO」の制作に携わり、「Guitar Freaks & Drum Mania」(以下ギタドラ)シリーズの楽曲を制作。ポップンサウンドディレクターをも務めた。現在はfacebookやドラマCDやノベル、ゲームを連動させたマルチメディアプロジェクトである「ひなビタ♪」シリーズを手掛けており(企画・原案・音楽監修を総て担当)、こちらも見逃せない。

BEMANIシリーズ内では徳井志津江とのユニット「Orange Lounge」、くりむとの童話的なトイポップユニット「Dormir」、コンセプトアルバムのように「叙事詩」としてファンタジックに楽曲が展開されていく「Zectbach」名義、最近ではシンフォニックなプログレ楽曲において「黒猫ダンジョン」名義などをも用い、wac同様に音ゲーコンポーザとして様々なジャンルの作曲を手がける。近年は中二病的なファンタジーを志向した仕事が目立つように思われるが、なにしろ初期はスタッフコメントなどで「女の子好き」キャラで暴走発言を繰り返し「ともすけべ」と呼ばれるほどであったし、ポップンに「凛として咲く花のごとく」を提供した際にはキャラクター案のオリジナルイラストを提出してスタッフを引かせたというエピソード(「撫子ロック」楽曲コメント)もあるほどで、BEMANIの中では妄想力がウリというキャラになっている。存分に発揮されるファンタジーの創造力が、広い音楽性の理解へ繋がり、10代の青少年に今も多くの影響を与え続けている。

★虹色リトマス「凛として咲く花のごとく」(ジャンル名:撫子ロック

音ゲーマーでなくても知っている、という方は少なくないのではないか。今ではBEMANIシリーズほぼ全機種に収録されるこの曲は、00年代終盤の音ゲーシーンを代表する歌謡ロックといえる。)
★Dormir「なまいきプリンセス」(ジャンル名:おしゃまスウィング)

(Dormir名義は単独でアルバムを発売するほどの人気がある、くりむの独特な歌声と、ダークファンタジー的側面も魅力のひとつのユニット。)
★Zectbach「Blind Justice」

IIDXを中心に展開されたZectbach名義の楽曲は、イラストレーターshioやMAYAの担当した、一曲につき一つのストーリーを思わせるムービーが相乗効果を生み、大変な人気であった。ドラマCDまで展開したこの一連の仕事は「Sound Horizon」シリーズを思わせる。)

しかしながら、この人気は楽曲の確かな強度からだろう。彼は「Dance ManiaX」の楽曲制作などの初期から意欲的にソウル・ミュージックやフレンチ・ポップ、ジャズ、ボサノヴァなど、広くワールド・ミュージックを取り入れた作曲をしている他、トランスなどのクラブ・ミュージックも手掛けている。

★ T.E.M.P.O. feat. Mohammed&Emi「JANE JANA」

Dance ManiaX収録。インドテイストのダンスポップとなっており、オリエンタルな方向性がうかがえる。)
TOMOSUKEGamelan de Couple」

MAMBO A GO GO収録。インドネシア民族音楽であるガムランから着想されたことはタイトルにもあるので言うまでもない。)
★Berimbau’66「Brazilian Anthem」

(ギタ―フリークス6thに収録。ギタドラDDRbeatmaniaポップンに比べ、ロック色・カントリー色・ジャズ色などが強い楽曲を担当したゲームと言えようか。こちらは聴き心地も遊び心地も良いジャズナンバー。)



>>TOMOSUKE渋谷系

ところで、ネオ渋谷系でとりあげた中田ヤスタカやPSBは、ポップンへ楽曲提供もしている。(前回紹介した記事(たにみやんアーカイブさま)も参照)
beatmaniaシリーズに小西康陽が参加していた流れからすればこのようなミュージシャンの混交は特別なことではないかもしれないが、ここではTOMOSUKEがキーパーソンとなっているのだ。…と、思いこんでいたが、中田さんへの繋がりがあったかどうかはちょっと調べただけでは分からなかった。ここに紹介するEeLは、ネオ渋谷系に含まれるアーティストであるとともに、ポップンではTOMOSUKEの楽曲にボーカルとして参加している。

Plus-Tech Squeeze Box 「BABY P」(ジャンル名:パニックポップ)

★EeL「Little Prince Loves You」

(ウィスパーボイスと高速打ち込みビートというテクノポップサウンドはまさにネオ渋谷系capsuleのゲストボーカルに参加する経歴も。ギタドラの公式サイトでTOMOSUKE氏がEeLにインタビューを行っていたりするところを見ると、知人関係にあるのかもしれない。)
★EeL「The end of my spiritually」

(beatmaniaIIDX9thに収録。トラックをTOMOSUKE、作詞とメロディーラインをEeLが担当している。)


TOMOSUKEの初期の仕事の中でもやはり特筆すべきは「Orange Lounge」で、ギタドラのコラムにて「アノラックやネオアコギターポップバンドをやっていた生粋のオリーブ少女」としてのボーカル徳井志津江ことSizu-Xが語られている。
http://www.konami.jp/am/guitar/sd2/column/f04.html
はじめに紹介した「Dimanche」の楽曲コメントで、TOMOSUKEは「マイク・オールウエイ風にちょっとピコピコでレトロフューチャーなポップを目指しました」という表現をしている。ポップン7の稼働は2001年、時期的にはネオ渋谷系のムーブメントと同時期。Cymbalsを彷彿とさせるギタドラ7th&6th収録の爽やかなポップナンバー「jet coaster☆girl」も同じ頃に作られている。「渋谷のピザ屋」が本当の話か冗談かは分からないが、渋谷での青春を経て、ダンスポップと民族音楽を広くカバーしてきたTOMOSUKEにとって、そのミクスチャー的な楽曲は必然的に生まれてきたのかもしれない。
以降、ポスト渋谷系と接点のありそうな楽曲を紹介しようと思う。

TOMOSUKE feat. Three Berry Icecream「jet coaster☆girl」

(初出はギタドラで、現在も多くの機種に移植される人気のナンバー。ちなみに、SOUND VOLTEXにて「jet coaster☆girl」のRemixをsasakure.UKが担当している。)
Orange LoungeMobo★Moga」

(初代Dance ManiaXに収録された楽曲であり、Orange Loungeの誕生にして代表曲のひとつ。フレンチポップ+ジャングル的な構成は、この後も多くの楽曲に応用されている。)
★常盤ゆう「CHOCOLATE PHILOSOPHY」

ギタドラ8&7thに収録。以前wacの後輩として紹介した常盤ゆうであるが、TOMOSUKEの楽曲のボーカルも度々担当している。)
★SHORTCUTS「marigold」(ジャンル名:フラワーポップ)

Orange Lounge「LOVE IS ORANGE」

(後半のドラムンベース的な展開がゲーム上においてもキモである。可愛いポップスながら速めのBPMで疾走感を出していくところがTOMOSUKE楽曲の特徴といえるかもしれないし、そのギャップが"ネオ渋谷系らしさ"なのかもしれない。)
Orange Lounge「Les Filles Balancent」

Orange Lounge名義は、2015年4月現在IIDXRED(2004年)に収録されたこの曲が最後となっている。)
★イオンチャンネル「クルクル☆ラブ〜Opioid Peptide MIX〜」

(原曲の作曲はdjTAKAで、KONAMIアーケードゲーム脳開発研究所クルクルラボ」のテーマ曲であった。「脳トレ」ゲームブームの流れで開発されたゲームがゆえに、「もじぴったん」を思わせるポップだ。)
★Dormir「Une mage blanche」

REFLEC BEAT収録。Dormir名義でありながら、jet coaster☆girlを思わせる疾走感と織り交ざる8bitサウンドが気持ちいい一曲。)
★L.E.D vs TOMOSUKE fw.crimm「Cookie Bouquets」

(L.E.D.との共作。ブレイクコアに載せたネオ渋谷系テイストが楽しい。)
あべにゅうぷろじぇくと feat. 佐倉紗織 produced by ave;new「恋はどう?モロ◎波動OK☆方程式!!」(ジャンル:理系ポップ)

電波ソングの金字塔あべにゅうぷろじぇくと(作曲チームave;new電波ソング中心グループ)音ゲー初参加曲であるが、ポップン20に収録されたこの曲の作曲者「理系男子」は実はTOMOSUKE。あべにゅう特有のボーカルや合いの手などを最大限生かしつつ、ネオ渋谷系的な素地が活きる逸品となっている。ポスト渋谷系ネオ渋谷系の支流が声優ソングやボカロ・アニソンに流れていったという構図がここでも伺える。)



前述した「ひなビタ♪」シリーズにおいては、セラニポージ・ササキトモコ作曲のストレートな渋谷系楽曲も制作されている。同シリーズには多数の音ゲーコンポーザーのほか、藤田淳平、ARM(IOSYS)、sasakure.UK等も参加。TOMOSUKEの趣味を全開にした結果、とも言えるかも知れないが、ダンスミュージックや民族音楽、フレンチポップや歌謡ロック、ファンタジー音楽や電波ソングに取り組んできた彼のひとつの集大成でもあり、新たな挑戦であるともいえよう。作中では主人公たちがTOMOSUKE楽曲の"セルフカバー”を繰り返しており、TOMOSUKE自身も登場キャラクターそれぞれが自分の分身であるようなことを発言している。「ひなビタ♪」は音楽の継承の、新しい方法となりうるだろうか。

ニコニコ大百科ひなビタ♪とは」
http://dic.nicovideo.jp/a/%E3%81%B2%E3%81%AA%E3%83%93%E3%82%BF%E2%99%AA

★日向美ビタースイーツ♪「恋とキングコング

★日向美ビタースイーツ♪「走れメロンパン」

(山形まり花がメインボーカル曲の作詞・作曲を、ササキトモコが務めている。)
★日向美ビタースイーツ♪「メンバー紹介っ!」

(LIVEのメンバー紹介風メドレーだが、メンバーそれぞれがTOMOSUKEの過去楽曲をカヴァーして歌っていくという内容になっている。)
★ここなつ「キミヱゴサーチ」

(作曲はsasakure.UK。彼はTOMOSUKEの影響を受けてきたクリエイタのひとり。)



さてさて、TOMOSUKEの多角的な仕事をなんとか駆け足で見ていきました。上手くまとまったかよく分かりませんが、ご感想いただけると嬉しいです。
次回は村井聖夜とALTについて書いてみたいと思います!ではでは。

ポップンから辿る音ゲーと”版権曲”

こんばんは。
3つの記事に渡ってポスト渋谷系音ゲー楽曲などについて書いてきましたが、少し休憩として以下のブログを紹介して、その一部への応答として記事を書いてみました。


>たにみやんアーカイブ「(主にゼロ年代前半の)音ゲーとJ-POPの繋がりを探る」
http://magamo.opal.ne.jp/blog/?p=2775


「マクロ視点」から音ゲーと邦楽を扱ったこの記事では、いい感じに音ゲーのそもそものお話を補強してくれています。
気づく人は気づいていると思うのですが、私は音ゲーといえどもあくまでKONAMIBEMANIシリーズ、そしてpop’n musicを中心として考察を続けてきました。例えばゲーム音楽でポスト渋谷系と深く関係があるのはナムコの「ことばのパズルもじぴったん」だと思いますし、「パラッパラッパー」「スペースチャンネル5」「テクニティクス」「太鼓の達人」「DJ MAX」、現代であれば「スクフェス」「project DIVA」などの重要な音楽ゲームはあると思うのですが、とりあえず目に見えてクラブミュージックや広く音楽産業に様々な芽を残しているのはBEMANIシリーズかなと思い、こちらを取り上げています。

★作曲:ケン・ウッドマン 編曲:幡谷尚史 「spaceport: introducing ulala!!」(スペースチャンネル5

(1999年発売のSEGAスペースチャンネル5」は英トランペット奏者ケン・ウッドマンの楽曲を使用。「きみのためなら死ねる」「サンバDEアミーゴ」などを手がけた幡谷尚史・「ソニックアドベンチャー」シリーズ楽曲制作の床井健一らが携わっている。幡谷はネオ渋谷系ユニット「セラニポージ」のプロデュースでも有名。)

神前暁ふたりのもじぴったん

(作曲はご存知、現在はアニソン界屈指の天才・神前暁。「もじぴったんうぇぶ」では公式にmp3が配布されており、capsule中田ヤスタカやPSBハヤシベなどのRemixも。)

また、木田俊介や新谷さなえの名前を挙げていたり、後々に捕捉しようと思っていた中田ヤスタカやPSBのポップンへの楽曲提供にも触れ、広くフォローされているように思います。そして、「第2のカラオケとしての音ゲー」に関しては、私個人としては「人が今音楽に何を欲望しているか」「音楽にノる、とはどういうことか」に深く関係する部分だと思いますので、じっくり考えたい部分であります。いずれ、こちらをこそ形にしたいところ。


しかしながら今回は、音ゲーと”版権楽曲の関係”に思うところが多すぎて、思わず筆をとってしまいました。

音ゲーの重要要素である楽曲だが、大部分をEMIのコンピレーションであるDancemaniaから引っぱってきたDDRは別として、基本最初は殆ど内製である。

この指摘は確かに重要で、これを知っているか知っていないかでまた、音ゲー楽曲文化の見方はずいぶん違ったものになると思われます。音ゲー初心者にとって「知らない曲ばかり」というのはハードルですが、これは裏表の関係でもあるのです。ということで、私の見てきたポップン版権事情などについてちょっと書き留めておきたいと思います。




>>>>ポップンにおける版権
ポップンミュージックに大々的に版権曲が収録されたのは、実はポップン6作目になってからのこと。収録曲が「ポップスのパロディ」という傾向の強いポップンであるが、有名人の「ご本人登場」的な意味で言えば、ポップン2に収録されたオリジナル曲「はばたけ、ザ・グレートギャンブラー」(ジャンル名「アニメヒーローR」)の歌唱が水木一郎だったり、ポップン4では所ジョージ作詞・研ナオコ歌唱の楽曲「Nanja-Nai」(ジャンル名「カヨウハウス」)が提供された等の例がある。
しかし、ポップン6の新曲はなんと1/3以上がアニメやドラマやバラエティなどのテーマソング。笑点サザエさん・キャンディキャンディ・ガンダム・ルパン・フランダースの犬etc.…。当時の反応はわからないが、これは大きな変革だったのではないか。ポップン6の稼動日は2001年の5月。初代太鼓の達人が2001年2月の発売なので、その開発を意識されてのことなのだろうか。

しかし、忘れてはいけない重要なこと!それはポップンの版権曲は、太鼓の達人のように”オリジナル音源”が収録された訳でなく、制作側で一度カヴァーされている、ということである。
パーキッツ「すいみん不足」

ポップンの中核アーティストであったパーキッツによる「キテレツ大百科」オープニングテーマのカヴァー。階段譜面が楽しい。)

beatmaniaポップンのようなボタンを押すことによって演奏されるシステムのゲームの場合は、太鼓の達人のように「原曲の上から太鼓の音を被せれば良い」というわけにはいかない(ボタンを押した時に演奏に関連してなる音のことを「キー音」といい、太鼓の達人はキー音があるとは言えないゲームだ)。その制約もあってか、版権を取り扱うのがデリケートだからか、版権曲は独自にアレンジされた形で収録される。だがアレンジャーが誰なのかは曲ごとにあまり明示されず、アーティストは「♪♪♪♪♪」と音符の記号で表示されるだけであることも。ただ、版権が入ったばかりのポップン6公式サイトの楽曲コメントでは、意外と「打ち込みが楽しかったっす」などと赤裸々に話しているところもあり、デビュー前?のwacもここで下積み的に版権曲の編曲を担当していた、ということがうかがえる。
下記に紹介するように、ポップンに収録された版権楽曲は実はさまざまなアレンジが生まれたのであった。

新谷さなえ「タッチ」

ポップン7収録。BEMANIの歌姫ことsanaによる歌唱でアレンジされた「タッチ」。)

★D-Crew+1「ホネホネロック」

ポップン9収録。D-crewこと右寺修によるアレンジ。お得意のハードコア風アレンジで、もはやクラブミュージックと化したホネホネロックが楽しい。)

★NMR「GET WILD

ポップン13に収録。DDRシリーズで活躍したNAOKIによるアレンジ、そしてNAOKIによる歌唱である。)

★♪♪♪♪♪「スーパーマリオブラザーズBGMメドレー」

ポップン14収録。衝撃の任天堂版権曲のアレンジ。しかも、このアレンジは村井聖夜によるコピーで作られており、水中ステージや洞窟ステージ、スターの獲得やボス戦までを含むオリジナルメドレーになっている。太鼓の達人verと聴き比べていただきたい。)
筋肉少女帯大釈迦」(ジャンル名「トラウマパンク」)

ポップン8の隠し曲。本人歌唱の原曲で入った例で、レベル42のEX譜面は長らくポップンのボス曲のひとつとして君臨し、大人気であった。このように「版権扱い」と「提供曲扱い」は実際のところ線引は難しい。)


(余談:版権曲は儚い。版権曲は権利上の関係やゲームの容量の関係で、数作後には削除されてしまうことも少なくない。特にここで紹介した「スーパーマリオブラザーズBGM」などは、収録作の次作であっさり無くなっていた。音ゲーが稼働するときは、「何が削除されてしまうのか」も重要な問題となり、わざわざ削除された曲を遊ぶため、特定のゲーセンに旧作を遊びに行ったりするユーザーもいる。)



>>J-POPが流れ込んだ2008年
ポップンでは以上のように、懐メロ要素が色濃い大衆的アニメ・ドラマ・ゲーム・バラエティの版権曲を毎作コンスタントに収録してきた。これは「ボタンをたたくといろんな音がでてたのしい!!」の原則が適用されていった結果であろう。
しかし、2008年3月稼働のポップンミュージック16PARTY♪では思い切った転換が図られた。「粉雪」「Love so sweet」「月光花」「天体観測」「創聖のアクエリオン」「そばかす」の6曲が収録される。ポップン15以前は意識的に版権曲を”大衆的な懐メロ”やアニソンに絞り込んでいたように思えたが、それに対し、ポップン16を皮切りにして、それ以後ほぼ現在進行形の「人気邦楽曲」が収録されるようシフトしたのだった。(もちろんこれらを「アニソン」「ドラマのテーマソング」と捉えることはできるのだが。)
★♪♪♪♪♪「天体観測」

(「天体観測」といえばギタドラだろう。はじめに紹介したブログにもあるように、ギタドラはライトプレイヤーが「天体観測」をまず最初に遊ぶため、プレイランキングでも常に一位、そしてデモプレイ映像でもこの曲が流れるため、ギタドラに近づくととにかく「天体観測」が聴こえてくるという思い出がある人も、多いのではないだろうか。jubeatの1作目にも収録されており、とにかく根強い人気である。ちなみに、本人歌唱ではなくカヴァー。)


現在ポップンbeatmaniaIIDXのプレイヤー人口をはるかに上回るBEMANIシリーズ人気作「jubeat」初代の稼働が2008年7月。ジュークボックスをイメージされた「jubeat」は他のBEMANIシリーズとは一線を画し、初期からmihimaru GTFUNKY MONKEY BABYSなどメジャーな邦楽曲のほか、インディーズシーンの音楽を多量に収録していた。また、画面に直接タッチするタッチパネル式の音ゲーだということも特筆すべきだろう。J-POPやJロックを多量に収録するという性質から、キー音のないプレイシステムが採用されたのかもしれない。「大衆音楽」の存在が揺らぎ、ボカロや動画サイトブームなどを通したアニソンの消費、数々のアイドルの登場――若者の趣味が広く分散していった時代を、やはりゲームも反映させていたということだろう。
Polysics「I my me mine」

(ゲーセンでポリシックスが流れてきた時にはビビった。ちなみにこれもカヴァー。)

ニコニコ動画β」がサービスを開始したのは2007年。SEGAからPSPソフトの音ゲー初音ミクProjectDIVA」が発売するのは2009年、翌年にはアーケードに進出した。2008年前後は大衆文化と音楽界の変化とも連動して、音ゲーの時代が大きく動いた年だったのかもしれない。ちなみに現ポップンサウンドディレクターのPONがサウンドスタッフとして初参加したのが2008年のポップン16。彼自体の登場が、ポップンに吹き込んだ新しい風という考え方もできるだろう。

なお、収録曲がネットを通じて追加配信できるようになったこと(楽曲更新のサイクルがはやくなった)、jubeat同様に多用な版権曲に対応することなどを考慮してか、ポップン近作では新収録の版権曲や移植曲の一部にキー音がついていない。また、現行のポップンミュージックラピストリアから楽曲のジャンル名を併記するシステムも廃止され、現在が大きな移行と実験の時期であることが感じられる。



その他、「Dance Mania」とDDRの関係、「Exit Tunes」とSound Voltexの関係、音ゲーに初期から渦巻く「クラシックと音ゲーの関係」など、まだまだ様々な切り口はあるのだが、煩雑になっていくので今回はここまで。
★ユニバーサル度胸兄弟「Thor's Hammer」

(クラシック楽曲のアレンジが超高難易度になるのはギタドラでもポップンでもbeatmaniaIIDXでもその他様々な音ゲーにおいて共通であり、興味深い。なお度胸兄弟はwacとL.E.Dの合作名義。)

ポスト渋谷系にみる、音ゲー楽曲と邦楽シーンの影響関係(後半の1)

>>前回の記事

 まずは前回の記事がご好評いただいて、嬉しく思います。好きで追いかけてきたものに偏っているにせよ、こうして並べて繋いでいくことで良い「出会い」があれば良かったな〜と思います。どんなに拙くても良いと思いますので、皆さんもぜひ脳内見取り図を書き出してカタチにしてみてください、なにか発見があるかも。

真面目に挨拶から始めましたが、今回はボカロPなどに触れていくため、ますます渋谷系からも「邦楽」からも離れていく印象があるかもしれません…w細かいことは置いておき、とりあえず目と耳を通して楽しんでいただいて、またご意見いただければ嬉しいです。
お詫びしなくてはいけないのは無計画に記事を書いていったらまたしても記事が無限に伸びていってしまったこと…「wacからボカロに繋いで、あとはTOMOSUKE村井聖夜あたりの紹介だあ」と思っていたのですが、ボカロPをとりあげるだけでまた前段階の解説やリサーチが必要になり、あれよあれよと長くなって、分割せざるをえなくなりました…w TOMOSUKE村井聖夜、その他、BEMANIの中で渋谷系やピコピコしたポップを作ってきた重要人物についてはまた次回まとめてみたいと思います。
さて以下本題。



>>>>DTM・同人・ボカロ
Hazel Nuts Chocolate「ヘーゼル・ナッツ・チョコレートのテーマ」

時は1990年代後半、ダンスダンスレボリューションbeatmaniaと同時代に発達していったインターネット…
00年代にかけてアマチュア音楽のネットワークは、DTM環境の発達、そして交流サイト「mixi」「muzie」などなどweb上での発表の場があってこそ成熟していった。私と同世代の方はインディーズ音楽を探すのに「muzie」を漁った記憶が、一度はあるかもしれない。「ネオ渋谷系」のムーブメントも、VOCALOID文化に繋がっていく同人音楽の進化も、「DTMの発達+インターネット」のコンボがベースにある。
紹介していくとまたキリがないが、ネオ渋谷系の打ち込み系楽曲は、アマチュアなら当然とはいえ「宅録」的な素朴さがあり、そのキッチュさも魅力なのかもしれない。
Hazel Nuts Chocolate「LOVE+PIECE+ICECREAM!」

Hazel Nuts Chocolate「まほうつかい」

(「へなちょこ」ことHazel Nuts Chocolate。可愛さと暖かさがつまった童話感ある楽曲を多くリリース、まさに宅録ポップ。)
hicalculator「Sweet Fantasy World」

hicalculatormuzie型アーティストの見本のようで、発表の中心がほぼmuzieこちら)であった。いまでも主要楽曲の多くが無料で聴けてしまう。「Sweet Fantasy World」「a tissue of lie」「life is game」の三部作はネオ渋谷系好きなら聴いて損はない完成度。2007年にavexからデビューしたようなのだが、残念ながらその後の経歴は不明。)


さて話は変わり、音ゲーと切り離せないネット上のムーブメント「Be-Music Script=BMS」をご存知だろうか。説明が厄介であるため、詳しくは各自ネットでググるか、はるく氏の同人評論誌「BMSの歴史本。」等を参照されたい。。
>「個人サークル"slappin'beats"情報ページ(仮)」
http://slappin-beats.sakura.ne.jp/
ニコニコ大百科BMSとは」
http://dic.nicovideo.jp/a/bms

多くを端折らざるを得ないのは残念だが、ざっくり言えば「BMS」とはパソコンで特定のファイル(楽曲)をプレイヤーとなるソフトウェアのファイルに入れていくことで、音楽ゲームのようなことができるという、誰もがいじれる・遊べるフリーソフトウェアの総称である。
MIDIでの作曲文化とも関係が深いこの界隈では、かつて名のある「作者」として(そして無論いまでも)多くのDTM作曲家やDJが活躍しており、二次創作音楽や同人ネットレーベルなどのアマチュア音楽シーン等と切っても切り離せないような存在となっている。“作曲家"ZUNが自らの作曲を楽しんで欲しいが故にゲーム「東方Project」シリーズを立ち上げたように、多くのアマチュア作曲者が「曲をプレイ」してもらうためにBMS用楽曲を発表していった。

★削除「Altale」

BMSを投稿し完成度を競う大会・お祭りでもあるイベント「G2R」の2014年優勝曲。BMSシーンは韓国など海外のユーザーをも巻き込み、質・量・プレイの腕前(!?)とも拡大する勢いで健在している。)

★約束〜HappyHyperStarmix〜 プレイ動画

(東方アレンジ最大手サークルのひとつCOOL&CREATEで名が知れているビートまりおであるが、例えば今から14年ほど前の2001年にはこのようなBMSを発表している。ゲーム「Kanon」のBGM「約束」と、beatmaniaIIDX4th収録のRyu☆デビュー作「starmine」のマッシュアップ的アレンジ。込み入っているが、このように「音ゲー楽曲をベースにして既存曲をダンスミュージックアレンジする」という同人音楽スタイルは今でも多く存在する。)


その後このBMS文化は多くのネット文化と同様、2007年以降の動画サイトブーム・SNSブームにゆるやかにつながっていった(IOSYSの制作してきた「魔理沙は大変なものを盗んでいきました」などのFlashニコニコ動画で爆発的にヒットしたのも顕著な例。)。そして、(多くのDTM作曲者に漏れず)名のあるBMS作者がVOCALOIDでの作曲を始め、「ボカロP」と化していくのである。それは先ほど書いたような、多くの人に音楽を聴いてもらいたいから「ゲームを作る」のと、別のルートが開かれたということでもある。(ブームの初期は「初音ミク」というだけで多くの視聴がされ、ファンがついた。)

OSTER Project「ミラクルペイント」
(「ボカロミュージカル」等で有名なOSTER Projectも、元は「Step Mania」などのソフトウェアや「muzie」で活躍していた。「ミラクルペインティング」はボカロでの出世作。)

★ゆうゆP「クローバー・クラブ」
(現在はメロディアスなロックナンバーが中心のゆうゆPだが、最初期にはこのようなオシャレなポップが。彼も篠螺悠那(ささらゆうな)というBMS作者・東方アレンジャーとして有名であった。)



柴那典著『初音ミクはなぜ世界を変えたのか』には「同人音楽の土壌」という漠然とした表現しか使われておらず、紙面の都合があるにせよ、たとえば後述の作曲家の名前は出てきても、音ゲーという重要なバックグラウンドには触れらていない。同人音楽BMSはあくまで「二次創作」というデリケートな問題が入ってくるため取り上げづらいが、アニソン・ゲーソン界隈やそれこそ「アキシブ系」で活躍する作曲家たちのいくらかは「二次創作」という豊かなコミュニティからもエネルギーを得ていたことは事実である。


>>音ゲーBMS、ボカロ、ネオ渋谷系、そしてポスト渋谷系
話が右往左往したが、ここにポスト渋谷系音ゲー同人音楽の交差点ともなる重要な作曲家、sasakure.UKを紹介したい。sasakure.UKはささくれPの愛称で親しまれる、ボーカロイドシーンで初期から活躍する重要人物のひとり。上記のような経歴にピッタリ当てはまり、彼は音ゲーのヘビープレイヤーでもありBMS作家であった。
ニコニコ大百科「ささくれPとは」
http://dic.nicovideo.jp/id/440073


★chocolate max「★SweeT DiscoverY★」

「chocolate max」は彼の別名義。sasakure.UK本人が手がけた、BEMANIシリーズの古株デザイナーshio忍を思わせるイラスト、キュートなメロディラインが特徴のこの一曲は、BMS界では彼の最初のヒット作にもなったようだ。
この世界観は前回取り上げたwacの、代表作のひとつ、「murmur twins」(beatmaniaIIDX8th収録)を想起してしまう。
★yu_tokiwa.djw「murmur twins」

(前回の終わりに紹介したのはギターポップアレンジ版。原曲は溢れだすようなピアノが魅力的な一曲。こちらも多くのユーザーに多大な影響を与えた「wacといえば」の一曲。)


VOCALOIDを使用した楽曲はピコピコサウンドを使った「PICO@LUV(☆彡とvとAIのウタ)」が最初期の投稿作であるが、ささくれPはこのあと、特にSF的世界観に振り切った楽曲シリーズを展開していく。
SF的な終末論が色濃い楽曲について、宮沢賢治星新一手塚治虫などからの影響を語っているが、ささくれPにとってはカタストロフィを感じさせる世界観を作り上げたwacも、欠かせないアーティストのひとりであることは間違いない。
初音ミク」はその登場直後から「VOCALOIDという音声ソフトが自分の想いを歌う」というSF的な切なさを内包した楽曲が多数存在しており、もともとフューチャー・SF志向だったネオ渋谷系とも相性が良かったということなのかもしれない。
★「ニジイロアドベンチュア」
YMCKをも思い出すMVにチップチューンサウンドを盛り込んだ「ニジイロ*アドベンチュア」を発表後、
ワンダーラスト」→「*ハロー、プラネット。」→「ぼくらの16bit戦争」→「しゅうまつがやってくる!
という4部作ともとれる楽曲をリリースし(作品内の時系列は別)、VOCALOIDの可愛さとのギャップを活かした終末的な切ない世界観を作り上げていった。
★「ワンダーラスト」
(疾走感やノイズサウンド。終末論的世界観は、「neu」をも思い出す。)
★「*ハロー、プラネット」
(2009年5月に発表され、現在は300万再生を超える代表作)



さて、ここがミソなのだが、sasakure.UKはポスト渋谷系の本流とクロスすることとなる。今回の記事に即して言えば、wacの先輩である、元Cymbalsボーカルの土岐麻子。彼女のオールタイム・ベスト・アルバム『BEST!2004-2011』には、sasakure.UKがリミキサーとして参加している。そして、Remixした楽曲がなんと前回も紹介したwac作曲「Little Prayer」なのであった。渋谷系からの支流がwacやTOMOSUKEを媒介し、また太い支流へ、と歴史を紡いでいるように思えてしまう。

その後sasakure.UKはアルバム『幻実アイソーポス』に土岐麻子をボーカルに迎え入れ、堂々のコラボレーションを果たしている。
sasakure.UK「深海のリトルクライ feat.土岐麻子

以下でアルバム発売にあたってインタビューがなされている。
> 音楽ナタリー Power Push sasakure.UK
http://natalie.mu/music/pp/sasakureuk

幻想的なポップの他にも電子音やノイズ、変拍子を活かしたフリー・ジャズフュージョンのようなインストゥルメンタル楽曲をも得意とする彼は現在でも精力的な活躍を続ける。
コラボレーションといえば、彼が2011年に結成したバンド有形ランペイジでは1stアルバム『有形世界リコンストラクション』内でボーカルに三森すずこを迎え入れ、ぽわぽわPの「ストロボラスト」をアレンジ。
★有形ランペイジ「ストロボラスト feat.三森すずこ

★ぽわぽわP「さよならリメンバーさん」
(ぽわぽわPこと椎名もたはこの「さよならリメンバーさん」の再MIX「ストロボハロー」を皮切りにセルフミックスを繰り返す「ストロボシリーズ」でその名が知れ「ストロボラスト」もそのひとつ。ギターサウンドが特徴的な都会的なポップスはちょっぴり渋谷的?)


昨年、sasakure.UKbeatmaniaIIDXの最新作で公式に楽曲提供を果たしており、こちらでも本流に繋がったかのようだ。この先の展開が楽しみである。
sasakure.UKAtröpøs」プレイ動画



>>音ゲー的感性直下、ネオ渋谷系の破滅と再生…暴走P
再び「neu」の流れに戻ってこよう。改めて言葉でまとめれば、ポスト渋谷系ネオ渋谷系という電子的・都会的・SF的な支流をつくり、RPG的”冒険"を続けるうちにノイズが増えBPMが加速し、どんどんとディストピア化していった。この流れのひとつの体現が「neu」ではなかっただろうか…。
初音ミクを超高速で歌わせるパイオニアとしても知られている、cosMo@暴走P。彼の場合は自ら、中学時代に音ゲーに触れたことが作曲のきっかけだ、と公言し、wacやTOMOSUKEから影響された、とハッキリ宣言している。彼の代表作「初音ミクの消失」も「VOCALOIDミク」としての儚さが歌われた終末論的な世界観の楽曲。その投稿(short ver.)は2007年11月。はやい!

★cosMo@暴走P「初音ミクの消失(LONG VERSION)」
(「涼宮ハルヒの消失」の文字りであるタイトルも、この楽曲の人気に無関係ではないだろう。暴走Pの魅力は高速な歌詞にネットスラングなどを大量に盛り込むようなところでもある。初音ミク自体の代表曲のひとつともいえるこの曲は、2012年には小説版までも発売された。)
★cosMo@暴走P「初音ミクの激唱(LONG VERSION)」
(本楽曲は音楽ゲーム初音ミク-ProjectDIVA-2nd」のボス曲でもある。暴走Pは無理解なネットユーザーから「wacのパクリ」というレッテルを貼られた時期もあった。のちにKONAMIの公式で「neu」のアレンジを担当、2015年にはLIVEでwacとの共演も果たすに至る。)
★cosMo@暴走P「ラクガキスト」
(もはや高速歌唱も変拍子フュージョンも、自然にポップス化している印象も。)


ここまで強引にポスト渋谷系から同人音楽・ボカロの世界の現在まで線を引いてきたが、このような複雑な根っこは当然様々なジャンル、様々な文化に共通しているだろう。ある意味で今回、たまたま「渋谷系」という物差しをつかって、音楽シーンに横たわる音ゲーのムーブメント、あるいは逆に音ゲーに流れこむ"渋谷系"のムーブメントの一端を掘り起こすことができた。

先日、以下の様な記事を読んだが、これはニコニコ動画内のデータを中心に音ゲーの生態系を分析しているともいえる記事だ。
>「現在ニコ動に投稿される動画の1割はmaimaiが占めている」
http://ascii.jp/elem/000/000/945/945144/
今回の私の記事や、上に貼った記事からも分かるように、音ゲー楽曲史を追うのにはサウンドトラックをひと通り聴いても見えてこない。二次創作やプレイ動画やMAD動画そしてファンコミュニティが乱反射しながら文化を作ってきた、なかなか一筋縄では見通しのきかない生態系を築いている。
しかしニコニコ動画というインフラの一部をこのように音ゲーが占めていたり、中高生がゲームセンターでこぞって音ゲーを楽しんでいることを考えると、「音ゲー楽曲」の影響は潜在的にも大きくなる一方、といえるかもしれない。この複雑な生態系に潜っていくには、きっと「渋谷系」のほかにも「ロック」「テクノ」「ダンス・ミュージック」「電波ソング」…様々な物差しが有効だろう。ほかの物差しについては、是非その専門の方にお願いしたいところだ…皆さんの語りにも、期待しています!w



>>>>「音ゲー楽曲」消費者世代の活躍
近年からonokenやDJ TECHNORCH、REDALiCEなど、同人音楽大御所作家がアーケードの音ゲーに公式に曲提供するようになったほか、最新の音ゲーであるSDVXでは公募の形をもとり、リミキサーやコンポーザーとして多くの"BMS出身”作家(Yamajet、しろまる、削除、xi、ねこみりん…etc.)が参加している。SEGA音ゲーmaimai最新作に至っては、BMS楽曲をそのまま収録している例も。
★nora2r「B.B.K.K.B.K.K.」(譜面動画)
音ゲーのプレーヤー世代が同人ネットレーベルやクラブシーンで経験を積み、外注できるクオリティに成長した、とも表現できるかもしれないし、大手ゲームメーカーがボカロPや同人作曲家を自らの文脈に”回収”していくかっこうでもある。同人音楽界隈で活躍した作曲家が"ゲームを立ち上げる側”に回った「groove coaster」「Cytus」などの例もここ数年で飛躍的に増えた。
時代状況に合わせてゲームの形態や企画は変化進化していくもので、最近ではwacがVOCALOID作曲に携わる、という複雑な状況展開にある昨今である。
★iconoclasm feat.GUMI「idola」

(「iconoclasm」はwacとIIDXコンポーザーdj TAKAによるユニット。)



…さて、ますます長くなり、余計な語りも入ってしまいましたが、次回はしれっとポスト渋谷系の話題に戻って、音ゲー渋谷系ど真ん中…いやむしろフランスまで突き抜けたかのようなコンポーザー、舟木智介を紹介したいと思います!
ではでは。



~~~~~~~~~~
(余談:清竜人『MUSIC』のラストを飾る「ぼくはシンデレラ・コンプレックス」は、編拍子やノイズ・逆再生の使用、終末感や死と再生のモチーフなどから、僕は明らかに「neu」や「初音ミクの消失」からの影響関係をみてしまうが、どうだろうか。『MUSIC』はシンガーソングライター清竜人がたったひとりでアニソン・ボカロブームや声優ソングと血まみれで闘ったようなアルバムなので、電波ソング・アニソン好きには是非聴いてもらいたい名盤であり、迷盤である。)


(余談:ささくれPは2009年、アメリカの歌手・BECCAとのコラボレートアルバムで「SHIBUYA」のリミックスを手掛けている。渋谷系から時を経て、AKIBAでもIKEBUKUROでもなくまた”SHIBUYA”。アレンジももちろんピコピコとしている。きっかけは、「I’m ALIVE!」のsasakure.UK自主アレンジを聴いたBECCAからの誘いだったという。)
sasakure.UK「I'm ALIVE! -PaniX BoX RemiX-」
(PVはtogaさんによる二次創作。カワイイ。)


>>次回の記事
※2015年4月7日、リンク修正。

ポスト渋谷系にみる、音ゲー楽曲と邦楽シーンの影響関係(中半)

前回の記事に引き続き、本題の「ポスト渋谷系」と「音ゲー」の関係についてざっくり書いていこうと思います。前半後半に分けようと思ったんだけど長くなったから無理だったぜ。
繰り返すようですが私は邦楽に造詣が深い人間でもなければ、結構記憶だよりで書いたりもしています!ぜひ肩の力を抜いて、音楽を楽しむ・掘るときのヒントになるようなものはないかな〜程度に読んでみてください。



ところで今さら渋谷系について何かまとまった情報はないかとググったところ、以下の様な記事が見つかりました。
音楽だいすきクラブ 2014.6.21.「渋谷系特集#1 渋谷系はかっこいい」
http://ongakudaisukiclub.hateblo.jp/entry/2014/06/21/102110
音楽だいすきクラブでは、この回から10回に渡って渋谷系の特集をしていおり、充実の内容。
第一回から「渋谷系っぽくないかっこいい渋谷系」としてオルタナティブ・ロック、グランジシューゲイザーアンビエント、ノイズ的な様々な曲を紹介しており、「渋谷系」が90年代の渋谷を中心としたある部分でカウンターカルチャー的な総合ムーヴメントだったことを再確認できました。逆に、「ポスト渋谷系」は最初期にあったエッジがずいぶん丸くなって、おしゃれミュージックになっているんだなという再確認でもありますね。
ポッパーや音ゲー好きの皆さんにも、アッあの曲ってこれが元ネタなんだ、的な楽曲がたくさん紹介されておりますので、ぜひチェックしてみては。


とはいえしつこいようですが、この渋谷系特集にもネオ渋谷系の流れや音ゲーコンポーザの名前はほとんど出てくることもなく、恐れ多くもそれを今回私が補強できたらなと思います。。。
きっと邦楽フリークスでも出会いづらい、音ゲー楽曲をぜひ聴いてほしい!
本題なので前回よりボリュームありますが、(そして音ゲーマーにとっては常識的な内容が多いかもしれませんが)、よければ読んで、聴いてみて下さい。




>>>>pop’n musicに流れる渋谷系の血
http://www.konami.jp/bemani/popn/
pop’n music」(以下ポップン)はそもそも「beatmania」のキッズ向け、9つのボタンを複数人で叩くことを想定して登場したことは有名である(もちろん今は一人でのプレイが常識となり、エクストリーム化している)。
ある意味で「DJごっこ」的ゲームの「beatmania」弟分として生まれたポップンは、その立場や性質から、J-POPのパロディが満載の状態で登場したのであった。マスコットキャラのミミ&ニャミがパフィーをイメージして作られたというのは、あまりにも有名。
しかし、忘れられていそうなのだが、実はポップンミュージックはポスト渋谷系と並走しつづけてきたといえる。以下、サウンドディレクターである杉本清隆と脇田潤を中心に紹介したい。
なお楽曲タイトルの後に表記している(ジャンル名:◯◯)というのはゲーム内でつけられているジャンル名。


(余談:ポップンでは楽曲ひとつひとつに"担当キャラ”のようなものが配される。この”担当キャラ”は作曲者の意図と関わったり関わらなかったりしながら、楽曲から受け取ったイメージからデザイナーが作り出していく。より複雑にはなるが、キャラクター自体も楽曲の文化的バックボーンを象徴することが少なくないため、注目するとより面白い。)



>>杉本清隆orangenoise shortcut)とポップンの永遠のアンセム「ポップス」
★ 「I REALLY WANT TO HURT YOU」プレイ動画

ポップン初代に収録された「I REALLY WANT TO HURT YOU」(ジャンル名:ポップス)は、ネオ渋谷系の旗手のひとりとなった、杉本清隆が参加した楽曲である。ポップンを古くから代表する曲をひとつ挙げるなら、多くのファンが選ぶ楽曲だろう。
記念すべきポップン10作目ではジャンル名「ポップスアンコール」としてアレンジが収録されており、公式も意識的にポップンのアンセムと認めているかたちだ。
(ちなみに担当キャラ「リエちゃん」は初代ポップンから毎作登場している根強い人気キャラクター。「服飾系デザイン学校に在学中の18才。 渋谷系の甘い歌声にメロメロな彼女はSGIクンの大ファン。 実は80年代の美系ブリティッシュロックバンドのマニアでもある。」という初期設定はなんだか色々なものを象徴している。)


当時杉本はbeatmaniaの企画原案者・南雲玲生に誘われ「SUGI&REO」としてこの曲を制作。杉本はこの参加をきっかけにコナミに入社、ポップンミュージック5作目・6作目のサウンドディレクターをも務めている。
音楽ユニットであるorangenoise shortcutの結成は、ポップン5に「Homesick Pt. 2&3」を提供したのがきっかけのようだ。
sugi&reo「(fly higher than) the stars」(ジャンル名:ネオアコ

orangenoise shortcut「Homesick Pt.2&3」(ジャンル名:ソフトロック)

orangenoise shortcut feat.櫛引彩香「桜リタルダンド

orangenoise shortcut「クオンタイズ」

(中学生のころ、渋谷系のハニーボイスに慣れない友人には「えっ、ボーカル男なの!?」と驚かれるもので、ポッパーのあるあるネタだと思う。「クオンタイズ」は個人的に大好きな一曲。)



のちに脇田潤(後述)作曲・杉本清隆歌唱の楽曲「Little Rock Overture」(ジャンル名:リトルロック)が作られ、ポップンのユーザーの要望にこたえたアルバム「ポップンミュージックリクエストベスト!」ではLONGバージョンも収録されている。
このことからも「ポップン的なるものへの期待=渋谷系ギターポップへの期待」という図式が一部分にはある、と感じられる。
現行機種の「ポップンミュージック ラピストリア」になると流石にもう分からないが、長らく"ポップンらしさ”を支えてきたのは渋谷系の血脈だったのだろう。
★惑星計画「Little Rock Overture」(ジャンル名:リトルロック




>>>>サウンドディレクターwac
脇田潤(以下wac)は早稲田大学の文学部出身で、コナミスクールを経てポップン6のサウンドディレクターになるという経歴を持ち、その経歴は作曲活動に影響し続けているように見受けられる。例えば、卒論は宮沢賢治についてだったようで、現在でも宮沢賢治の作品からモチーフを得た楽曲が多々ある。
また、自らが"文学少年像"を意識したと思われる「ポップミュージック論」「面影橋」のような楽曲があることもつけ加えたい。

前回貼った記事(「渋谷系と声優とレーベルの話」)でも触れられているように、wacの大学時代のサークルの先輩後輩にはポスト渋谷系のひとつの代表格Cymbalsや、risetteなどのバンドがおり、ゲーム収録楽曲にたびたびその人脈が生かされているのはファンならよく知っている話。特にポスト渋谷系として名を馳せた先輩・Cymbals沖井礼二の存在は大きかったと思われる。
のちに沖井礼二はポップンへ3曲提供しており、「空への扉」(ジャンル名:グライド)公式での楽曲コメントでwacは彼への憧れを惜しみなく語っている。(http://www.konami.jp/bemani/popn/music13/m_and_c/06/06_03.html
★CHARMAINE「空への扉」(ジャンル名:グライド)

(キャラクターがリエちゃんであることにも注目したい。)
REUNION「Break on Through」(ジャンル名:ソニックブーム

また元Cymbalsボーカルの土岐麻子は、ギタドラにおいてwac作曲の「Little Prayer」のボーカルを務めている。
土岐麻子「Little Prayer」

(「少年ラジオ」作風で(後述)、ギタドラでのwac初提供曲となった。初登場にも関わらず楽曲が隠し要素化し高難易度だった、というモヤモヤに関してのアンサーが提供2曲目の「繚乱ヒットチャート」歌詞に表現されている、というウワサも。)



>>コンポーザーとしてのデビュー
先に多くの楽曲を紹介してしまったが、音ゲーでのwacが表立って登場するのは、ポップン7での「カモミール・バスルーム」(ジャンル名:スウェディッシュ)である。こちらは非常に爽やかなギターポップとなっており、ボーカルに後輩・risetteの常盤ゆうを迎えている。パワフルな歌唱と独特のハスキーボイスで、以後常盤ゆうはTOMOSUKE楽曲でも多数ボーカルを務めるなどし、BEMANIシリーズの重要な歌姫となる。
★常盤ゆう「カモミール・バスルーム」(ジャンル名:スウェディッシュ) 

(リコーダーの音色も特徴的。そういえばwacは初期「笛のお兄さん」を自称していた気がする。)
risette「Tangeline」

(こちらはポップン8にもアレンジされて収録された、risetteの楽曲。)


また、ポップン7でwacは、上で紹介した「Homesick Pt.2&3」(ジャンル名:ソフトロック)のロングバージョンの編曲を隠し曲として担当している。先輩の渋谷系サウンドをここでアレンジしている、というのは、ここにおいてもバトンが渡っていくようだ。



>>音ゲーコンポーザーのオールマイティ問題
さて、ここまで渋谷系の支流に沿わせるようにして語ってきたが、音ゲーのコンポーザーはゲームの性質上、短期間で実に多彩なジャンルの音楽を作曲することが少なくない。その点では、単に影響関係や文脈ありきで彼らの活動を語ることはできない。ここが、音ゲー楽曲や作曲家を語りづらくしている一つの原因でもある。彼らはゲーム制作をする「社員」でもあるから。
杉本清隆はDJ SIMONやサインモンマン名義で、ヒーローもののパロディ楽曲や実験的な楽曲などを提供しており、プレイ中にオブジェの落下速度が変わる通称”ソフラン”システムの発案者でもあるし、wacにいたっては専任コンポーザとしての活動歴の長さもあり、テクノサウンドからシューゲイザー、ファンクからピアノ独奏曲、民族音楽からネタモノまで目まぐるしき七色の作曲を手掛けている。名義もころころ変わるため、ゲームの新作が稼働するときには「作曲者当てゲーム」状態になることも。
主要コンポーザーがオーケストラ風音楽から打ち込みのハードコアまでを手がけるというのは結構当たり前になりつつあり、作曲者としてはよくあることかもしれないが、「音楽シュミレーションゲーム」というパロディベースの土壌ならではの側面もあり、アーティストとして一般に紹介するのはちと難しさがある。
★サイモンマン「西新宿清掃局」(ジャンル名:パーカッシヴ)

(杉本のサイモンマン名義の実験的な楽曲。ポップン5収録で、中盤の加速地帯(ソフラン)は音ゲー史上に残る。)
★ギラギラメガネ団「ポップミュージック論」(ジャンル名:メガネロック

(wacが全面的に邦ロック色を出した最初の作品ともいえる、根強い人気を持つ歌謡ロック的ナンバー。担当キャラ「ナカジ」はいかにも文学少年的フェチズムに満ちたデザイン。ナンバーガールアジカンなどを意識したサウンドといえる。歌唱やギターで協力しているのは大学サークルの後輩バンド「ギラギラ」とのこと。)
青野りえ「garden」

(beatmaniaIIDX12 HAPPY SKY収録。まさにCymbalsアメリカの女王」などを彷彿とさせるジャジーな楽曲。歌唱の青野りえは大学サークル同期とのこと。)



>>語り継がれるボス曲「ニエンテ」
ゲーム内で名義をあまりに多用するwacであるが、そのなかのひとつ「少年ラジオ」名義はそもそもbeatmania IIDX9thに収録された「moon_child」においてであった。ノイズサウンドエレクトリックピアノをかけあわせた幻想的なサウンドが特徴の楽曲に用いられるようである。
★少年ラジオ「moon_child」


wacはこの「少年ラジオ」名義の中で、(そしてある意味仕事の多忙さの中で)ひとつの代表的な楽曲を作り出した。
終末的な世界観を疾走感あるシンフォニックなサウンド、ノイズや高速のピアノ演奏などと共に表し、常盤ゆうのパワフルな歌唱が切なさを高めていく、「neu」(ジャンル名:ニエンテ)である。
★少年ラジオ「neu」(ジャンル名:ニエンテ)

ポップン15 ADVENTURE内イベント(「わくわく探検隊」2007年夏)のラスボスとして登場したこの楽曲は、そのインパクトと難しさ、楽曲の"崇高な感じ"から、多くのユーザーの記憶にのこり、いまなお人気のwac曲のひとつ。
その人気から、wac自身も「neu」のバリエーションとも思える楽曲をいくつか作曲しており、ユーザーにも「wac風のアレンジ」として真似られるようにまでなっている。
プログレ的な編拍子、ノイズ、「ドドドドド!」というリズムと高速で演奏されるピアノ・ギターなどが、「ボスっぽさ」に利用される芸風は、現在のサウンドディレクターPON氏を始め多くのクリエイターにも受け継がれているように思える。

OSTER Project「sigisigカオスアレンジ」
音ゲー曲「sigisig」の同人アレンジ。2:28頃からいかにも「neu」風な展開が。OSTER Projectは後述のBMS・ボカロPの活動を経て現在では本家IIDXにも楽曲提供をするようになった作曲家のひとり。)
★少年ラジオ「uen」(ジャンル名:リナシタ)

(「neu」の逆再生をベースに新たな曲として作られた。アルバム「音楽」では「uen」を曲の中に組み合わせた再生時間12分超の「neu」も収録されている。)
★PON+wac「創世ノート」(ジャンル名:クリエイター)

(現在ポップンサウンドディレクターを務めるPONとの合作。歌唱はPON。)




ネオ渋谷系から遠くにきてしまったようにも思えるが、以上の楽曲を踏まえながら、「neu」に影響されていった、日本の音楽シーンで活躍しつつある何人かのボカロPについて書いて、ポスト渋谷系に戻ってこようと思う。BEMANIシリーズのコンポーザー、舟木智介ことTOMOSUKE村井聖夜とALTについてもおさえておきたい。
しかし冒頭に貼った渋谷系特集を色々聴いていると、なんだか少年ラジオのキラキラノイズな作風も下地に渋谷系があるような気がしてきてしまったり、またしても「渋谷系って結局…」という気分に苛まれてしまいそうですね。。w


最後に僕がもっとも好きな曲のひとつを紹介しておわります。
★yu_tokiwa.djw merge scl.gtr「murmur twins (guitar pop ver.)」


>>次回の記事
※2015年4月7日、リンクの修正。

ポスト渋谷系にみる、音ゲー楽曲と邦楽シーンの影響関係(前半)

梅ラボ氏がtwitterでなにげなく紹介した2つの記事。
「【アニソン】アキバ系×渋谷系=名曲の宝庫! “アキシブ系”厳選オススメ楽曲6」
http://ure.pia.co.jp/articles/-/33118
渋谷系と声優とレーベルの話」
http://aoicat.hatenablog.com/entry/2014/09/02/230029


僕は邦楽史とか渋谷系に通じているわけでもないし、アニソンをハードに聴きかじるオタでも、ボカロムーヴメントを追い続けるボカロファンでもない。音ゲーも、10年以上やってるとはいえ下手っぴである。
とはいえ現代の音楽史みたいなものが語られるとき、あまりに「音ゲー楽曲」が過小評価されているのを見かけて、とってもモヤモヤしてきた。


上記記事は渋谷系とアニソン・声優ソングを中心とした話ではあったが、今回は渋谷系音ゲー楽曲という分野の中で独自に熟成しており、それがその外と相互に影響しているのではないか、という"過剰評価”をしてみたくなったので、この文章を書いている。
文章の拙さは評論家でもライターでもないのでご愛嬌。邦楽と音ゲーの広くややこしい地図を少しでも見通しよくしていきたいと思います。
そしてツッコミをお待ちしています。




>>>>ネオ渋谷系の話

ポスト渋谷系について言及するならば、見逃してはいけない「ネオ渋谷系」。しかし上記2つの記事ではあまり触れられず、話が広がり過ぎないようにという自制とはいえ僕は違和感が残る。
ネオ渋谷系とは、渋谷系に影響を受けた2000年代前半のミュージシャンたちに適用されたカテゴライズ。
ネオ渋谷系の重要アーティストcapsule中田ヤスタカ)の楽曲を聴けば分かるように、「ピコピコ」サウンドが目立つ「レトロ」+「フューチャー」感あるエレクトロポップ群が、ネオ渋谷系の一つの流れとして存在する。
おそらくピチカート・ファイヴ小西康陽)のダンスポップの比重が大きくなって進化したということなのだろうけど、中田ヤスタカがcapsleを経てPerfumeをプロデュースしていくことを考えると、元祖渋谷系の観点からはたしかに言及しづらいベクトルなのかもしれない。
ピチカート・ファイヴ「東京は夜の7時」

capsuleポータブル空港




>>ウサギチャンレコーズという支流

ネオ渋谷系の支流を語るのに欠かしてはいけないひとつのレーベルが、もはや伝説の「ウサギチャン・レコーズ」。更新が停止して久しい公式サイトには「USAGI-CHANG RECORDSは高速打ち込みユニットSOCOPO等の活動をしてきたAKIRA SUZUKIが運営するエレクトロ・インディーポップレーベルです。」とある。
http://www.usagi-chang.com/


ウサギチャンレコーズエイプリルズYMCKの初期リリース元となったほか、コンピレーションではPlus-Tech Squeeze BoxHazel Nuts Chocolateを紹介しており、一部のエレクトロポップファンには名が知れているのでは。と思っていたのだが、改めて見てみると活動歴があまりに短い気もする。単に僕の青春だった、というだけであろうか…(汗
個人的にはハードなノイズサウンドとウィスパーボイスを組み合わせたmacdonald duck eclairなども渋谷系極地として注視したい。
上記webサイトでぜひ試聴していただきたい。


エイプリルズ 「キ・ラ・メ・キ・ムーンダイバー」

ハニーボイスなどは渋谷系譲りだが、世界観は未来志向。「フューチャー」を歌う。
YMCK 「Magical 8bit Tour」

8bitサウンドのポップスでは有名なYMCK。興味深いのは最近この両者ともにmaimaiやグルーヴコースター等の最新音ゲーに楽曲を提供している点。
Plus-Tech Squeeze Box 「early RISER」

「Dough-Nuts Town's Map」


PSBはハヤシベトモノリを中心とした音楽ユニットであり、2ndアルバム「CARTOOM!」は9人のボーカルを迎え4500種以上のサンプリングで構築されている(インタビューによると歌詞もアメコミの切り貼り)という化け物のような内容で、僕の永遠の名盤である。中田ヤスタカと双璧をなすほどの実力者だと思っているが、最近は表立って名前を聞かない。重要なインタビューのwebサイトも消えてしまった。このごろ「スペースダンディ」の劇中音楽を手がけたりしたんですね、知らなんだ。
ポップンミュージックには「BABY P」(ジャンル名:パニックポップ)を提供している。


こうして振り返ると、「渋谷系」の派生だから当然とはいえ、"未来都市トーキョー"をプッシュしまくる曲が多い。
2000年代初頭の、浮かれ気分が渋谷系のアップデートを促したのだろうか。
石岡良治氏の『視覚文化超講義』で触れられている「ノスタルジアの問題」に関係するかもしれない。
capsuleは「レトロメモリー」という三丁目の夕日的な曲を残しているし…。



そして渋谷系音ゲーといえば、家庭用beatmaniaにおいて2001年、小西康陽は実際「beatmania THE SOUND OF TOKYO!」をプロデュースしている。こちらも伝説的ゲームなので、抑えておくべきだろう。
小西康陽「ビートの達人」




ざっくりとネオ渋谷系という進化系についてツマんで紹介したが、次の記事では「pop’n musicに流れる渋谷系の血」「サウンドディレクターwac」などを紹介し、音ゲー楽曲のいち側面を振り返ってみたいと思う。
今回はここまで。


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※2015年4月7日、一部リンク追加等の修正をしました。