ポスト渋谷系にみる、音ゲー楽曲と邦楽シーンの影響関係(後半の2)

以前から書き続けてきた
ポスト渋谷系にみる、音ゲー楽曲と邦楽シーンの影響関係(前半)
ポスト渋谷系にみる、音ゲー楽曲と邦楽シーンの影響関係(中半)」
ポスト渋谷系にみる、音ゲー楽曲と邦楽シーンの影響関係(後半の1)
に引き続いて、今回は後半その2としてTOMOSUKEについてまとめてみました。やはり、なが〜くなりましたw
あんまり文章書きに慣れないもので、後から読みやすいような調整を入れたりしていますが、ご了承くださいませ。



>>>>渋谷系を通りすぎて「フランスからやってきた」、TOMOSUKE

渋谷系音ゲー」…といえばwacじゃなくてまずともちんでしょ!というツッコミの声が聞こえてきそうだ。BEMANIシリーズで最も本格志向のオシャレなポップを提供し続けてきた一人は考えてみればwacというよりTOMOSUKEかもしれない。勿論TOMOSUKE氏の楽曲も大好きなものがいくつもあるのだが、何故私の頭の中ではTOMOSUKEよりwacの方が距離が近いのだろう…そう考えてふと思ったのである。
TOMOSUKEの曲、オシャレすぎるのでは??」
wacが全面的に出す「日本のハイブリッド」感に比べ、TOMOSUKEのいかにも本格的なジャジーな楽曲、フレンチなポップ。これはネオ渋谷系とかポスト渋谷系とかよりももっと本場に近い感じがする。なにしろ、フランス語だし。。

Orange Lounge「Dimanche」(ジャンル名:ラウンジポップ)

ポップン7に収録された、ポップン初のTOMOSUKE楽曲。以前の記事(中半)に引き続き、キャラクターがリエちゃんであることは注目。)


さて、改めてざっくりとTOMOSUKEを紹介しよう。「ともちん」の愛称で呼ばれるTOMOSUKEこと舟木智介は、KONAMIの初期の音ゲーシリーズである「Dance ManiaX」「MAMBO A GO GO」の制作に携わり、「Guitar Freaks & Drum Mania」(以下ギタドラ)シリーズの楽曲を制作。ポップンサウンドディレクターをも務めた。現在はfacebookやドラマCDやノベル、ゲームを連動させたマルチメディアプロジェクトである「ひなビタ♪」シリーズを手掛けており(企画・原案・音楽監修を総て担当)、こちらも見逃せない。

BEMANIシリーズ内では徳井志津江とのユニット「Orange Lounge」、くりむとの童話的なトイポップユニット「Dormir」、コンセプトアルバムのように「叙事詩」としてファンタジックに楽曲が展開されていく「Zectbach」名義、最近ではシンフォニックなプログレ楽曲において「黒猫ダンジョン」名義などをも用い、wac同様に音ゲーコンポーザとして様々なジャンルの作曲を手がける。近年は中二病的なファンタジーを志向した仕事が目立つように思われるが、なにしろ初期はスタッフコメントなどで「女の子好き」キャラで暴走発言を繰り返し「ともすけべ」と呼ばれるほどであったし、ポップンに「凛として咲く花のごとく」を提供した際にはキャラクター案のオリジナルイラストを提出してスタッフを引かせたというエピソード(「撫子ロック」楽曲コメント)もあるほどで、BEMANIの中では妄想力がウリというキャラになっている。存分に発揮されるファンタジーの創造力が、広い音楽性の理解へ繋がり、10代の青少年に今も多くの影響を与え続けている。

★虹色リトマス「凛として咲く花のごとく」(ジャンル名:撫子ロック

音ゲーマーでなくても知っている、という方は少なくないのではないか。今ではBEMANIシリーズほぼ全機種に収録されるこの曲は、00年代終盤の音ゲーシーンを代表する歌謡ロックといえる。)
★Dormir「なまいきプリンセス」(ジャンル名:おしゃまスウィング)

(Dormir名義は単独でアルバムを発売するほどの人気がある、くりむの独特な歌声と、ダークファンタジー的側面も魅力のひとつのユニット。)
★Zectbach「Blind Justice」

IIDXを中心に展開されたZectbach名義の楽曲は、イラストレーターshioやMAYAの担当した、一曲につき一つのストーリーを思わせるムービーが相乗効果を生み、大変な人気であった。ドラマCDまで展開したこの一連の仕事は「Sound Horizon」シリーズを思わせる。)

しかしながら、この人気は楽曲の確かな強度からだろう。彼は「Dance ManiaX」の楽曲制作などの初期から意欲的にソウル・ミュージックやフレンチ・ポップ、ジャズ、ボサノヴァなど、広くワールド・ミュージックを取り入れた作曲をしている他、トランスなどのクラブ・ミュージックも手掛けている。

★ T.E.M.P.O. feat. Mohammed&Emi「JANE JANA」

Dance ManiaX収録。インドテイストのダンスポップとなっており、オリエンタルな方向性がうかがえる。)
TOMOSUKEGamelan de Couple」

MAMBO A GO GO収録。インドネシア民族音楽であるガムランから着想されたことはタイトルにもあるので言うまでもない。)
★Berimbau’66「Brazilian Anthem」

(ギタ―フリークス6thに収録。ギタドラDDRbeatmaniaポップンに比べ、ロック色・カントリー色・ジャズ色などが強い楽曲を担当したゲームと言えようか。こちらは聴き心地も遊び心地も良いジャズナンバー。)



>>TOMOSUKE渋谷系

ところで、ネオ渋谷系でとりあげた中田ヤスタカやPSBは、ポップンへ楽曲提供もしている。(前回紹介した記事(たにみやんアーカイブさま)も参照)
beatmaniaシリーズに小西康陽が参加していた流れからすればこのようなミュージシャンの混交は特別なことではないかもしれないが、ここではTOMOSUKEがキーパーソンとなっているのだ。…と、思いこんでいたが、中田さんへの繋がりがあったかどうかはちょっと調べただけでは分からなかった。ここに紹介するEeLは、ネオ渋谷系に含まれるアーティストであるとともに、ポップンではTOMOSUKEの楽曲にボーカルとして参加している。

Plus-Tech Squeeze Box 「BABY P」(ジャンル名:パニックポップ)

★EeL「Little Prince Loves You」

(ウィスパーボイスと高速打ち込みビートというテクノポップサウンドはまさにネオ渋谷系capsuleのゲストボーカルに参加する経歴も。ギタドラの公式サイトでTOMOSUKE氏がEeLにインタビューを行っていたりするところを見ると、知人関係にあるのかもしれない。)
★EeL「The end of my spiritually」

(beatmaniaIIDX9thに収録。トラックをTOMOSUKE、作詞とメロディーラインをEeLが担当している。)


TOMOSUKEの初期の仕事の中でもやはり特筆すべきは「Orange Lounge」で、ギタドラのコラムにて「アノラックやネオアコギターポップバンドをやっていた生粋のオリーブ少女」としてのボーカル徳井志津江ことSizu-Xが語られている。
http://www.konami.jp/am/guitar/sd2/column/f04.html
はじめに紹介した「Dimanche」の楽曲コメントで、TOMOSUKEは「マイク・オールウエイ風にちょっとピコピコでレトロフューチャーなポップを目指しました」という表現をしている。ポップン7の稼働は2001年、時期的にはネオ渋谷系のムーブメントと同時期。Cymbalsを彷彿とさせるギタドラ7th&6th収録の爽やかなポップナンバー「jet coaster☆girl」も同じ頃に作られている。「渋谷のピザ屋」が本当の話か冗談かは分からないが、渋谷での青春を経て、ダンスポップと民族音楽を広くカバーしてきたTOMOSUKEにとって、そのミクスチャー的な楽曲は必然的に生まれてきたのかもしれない。
以降、ポスト渋谷系と接点のありそうな楽曲を紹介しようと思う。

TOMOSUKE feat. Three Berry Icecream「jet coaster☆girl」

(初出はギタドラで、現在も多くの機種に移植される人気のナンバー。ちなみに、SOUND VOLTEXにて「jet coaster☆girl」のRemixをsasakure.UKが担当している。)
Orange LoungeMobo★Moga」

(初代Dance ManiaXに収録された楽曲であり、Orange Loungeの誕生にして代表曲のひとつ。フレンチポップ+ジャングル的な構成は、この後も多くの楽曲に応用されている。)
★常盤ゆう「CHOCOLATE PHILOSOPHY」

ギタドラ8&7thに収録。以前wacの後輩として紹介した常盤ゆうであるが、TOMOSUKEの楽曲のボーカルも度々担当している。)
★SHORTCUTS「marigold」(ジャンル名:フラワーポップ)

Orange Lounge「LOVE IS ORANGE」

(後半のドラムンベース的な展開がゲーム上においてもキモである。可愛いポップスながら速めのBPMで疾走感を出していくところがTOMOSUKE楽曲の特徴といえるかもしれないし、そのギャップが"ネオ渋谷系らしさ"なのかもしれない。)
Orange Lounge「Les Filles Balancent」

Orange Lounge名義は、2015年4月現在IIDXRED(2004年)に収録されたこの曲が最後となっている。)
★イオンチャンネル「クルクル☆ラブ〜Opioid Peptide MIX〜」

(原曲の作曲はdjTAKAで、KONAMIアーケードゲーム脳開発研究所クルクルラボ」のテーマ曲であった。「脳トレ」ゲームブームの流れで開発されたゲームがゆえに、「もじぴったん」を思わせるポップだ。)
★Dormir「Une mage blanche」

REFLEC BEAT収録。Dormir名義でありながら、jet coaster☆girlを思わせる疾走感と織り交ざる8bitサウンドが気持ちいい一曲。)
★L.E.D vs TOMOSUKE fw.crimm「Cookie Bouquets」

(L.E.D.との共作。ブレイクコアに載せたネオ渋谷系テイストが楽しい。)
あべにゅうぷろじぇくと feat. 佐倉紗織 produced by ave;new「恋はどう?モロ◎波動OK☆方程式!!」(ジャンル:理系ポップ)

電波ソングの金字塔あべにゅうぷろじぇくと(作曲チームave;new電波ソング中心グループ)音ゲー初参加曲であるが、ポップン20に収録されたこの曲の作曲者「理系男子」は実はTOMOSUKE。あべにゅう特有のボーカルや合いの手などを最大限生かしつつ、ネオ渋谷系的な素地が活きる逸品となっている。ポスト渋谷系ネオ渋谷系の支流が声優ソングやボカロ・アニソンに流れていったという構図がここでも伺える。)



前述した「ひなビタ♪」シリーズにおいては、セラニポージ・ササキトモコ作曲のストレートな渋谷系楽曲も制作されている。同シリーズには多数の音ゲーコンポーザーのほか、藤田淳平、ARM(IOSYS)、sasakure.UK等も参加。TOMOSUKEの趣味を全開にした結果、とも言えるかも知れないが、ダンスミュージックや民族音楽、フレンチポップや歌謡ロック、ファンタジー音楽や電波ソングに取り組んできた彼のひとつの集大成でもあり、新たな挑戦であるともいえよう。作中では主人公たちがTOMOSUKE楽曲の"セルフカバー”を繰り返しており、TOMOSUKE自身も登場キャラクターそれぞれが自分の分身であるようなことを発言している。「ひなビタ♪」は音楽の継承の、新しい方法となりうるだろうか。

ニコニコ大百科ひなビタ♪とは」
http://dic.nicovideo.jp/a/%E3%81%B2%E3%81%AA%E3%83%93%E3%82%BF%E2%99%AA

★日向美ビタースイーツ♪「恋とキングコング

★日向美ビタースイーツ♪「走れメロンパン」

(山形まり花がメインボーカル曲の作詞・作曲を、ササキトモコが務めている。)
★日向美ビタースイーツ♪「メンバー紹介っ!」

(LIVEのメンバー紹介風メドレーだが、メンバーそれぞれがTOMOSUKEの過去楽曲をカヴァーして歌っていくという内容になっている。)
★ここなつ「キミヱゴサーチ」

(作曲はsasakure.UK。彼はTOMOSUKEの影響を受けてきたクリエイタのひとり。)



さてさて、TOMOSUKEの多角的な仕事をなんとか駆け足で見ていきました。上手くまとまったかよく分かりませんが、ご感想いただけると嬉しいです。
次回は村井聖夜とALTについて書いてみたいと思います!ではでは。